アイデアの出る場所

書きかけブログを見返していたら、今から2年ほど前に書いたまま公開していない記事があった。かなり時期を逃しているが、供養もかねて加筆修正して公開する。

飲みながら会議

ここのところ、まったく外食をしなかったわけでもないが、回数は激減した。特に食事をしながらの打合せは日中のオンラインになり、それはそれでコトは済むのだが、どこか事務的な感じがしている。

今どきこんな事を書くと眉を顰められてしまうけれど、飲みながら話をしていると話が方々に飛んで、その中から突拍子もないアイデアが出ることがある。

酔った勢いとは恐ろしいもので、それ面白いね!やってみよう!!と、なることがある。素面に戻った時には、八割方「やっぱ無理だね」ともなるのだが。

それでも残り二割くらいのアイデアが実現した時、それが素っ頓狂なものでも…いや、むしろそんなアイデアが却って面白かったりするから、あながち「飲みながら会議」も馬鹿にはできない。

そんな「飲みながら会議」は、居酒屋を使うことが多い。あれこれ注文して少しずつ箸を進めながら話をする。今となってはありえない光景になってしまった。

私の場合、レストランでコース料理をいただきながら話をしていても、目の前の料理に集中しすぎてしまい、会議内容が頭に入ってこない。手っ取り早く言えば、生まれつき食いしん坊なのだ。

鳥貴族

実を言うと、私はチェーン系の居酒屋が好きだ。実際には年に一度行くか行かないか程度だが、ときどき無性に行きたくなる。

ところが同世代の友人を誘っても「個人店でいいところ知ってるから」だの「二十代じゃあるまいし」だのと言われてしまう。私だってそれなりに店は知っているつもりだ。でもそうじゃないんだ。私が好きなのは、チェーン店のあの雰囲気なのだ。

先年、ノリタケの森での二人展を終えた直後、某番組で鳥貴族を特集していたのを偶然見て以来、鳥貴族熱が再燃した。再燃というとずっと常連みたいな言い方だが、白状すれば過去に一度しか行った事がない。

もう4年ほど前になるのだろうか。東京での仕事を終え、友人と合流し夕食をとることにした時のこと。鳥貴族の看板を見かけた私は「あの店、ずっと気になってたんだよね」と言ったら「どこにでもある店なのに!?」と心底驚かれてしまった。

驚かれようが何されようが、気になっていた店が目の前にあるのだから行くしかあるまい。

こうして初トリキを堪能する私を尻目に、友人は「鳥貴族でこんなに喜ぶなら安上がりでいい」と気前よく払ってくれた。ついでに「いつでもご馳走するよ」とまで言ってくれた。が、よくよく考えてみたら東京までの交通費の方がよほど高くつくし、そもそも愛知にだって鳥貴族はある。

さて件の番組を見て以来、熱が再燃した私は「鳥貴族ぅ~」と言い続けていた。

そんなに行きたいのなら、とっとと一人で行けばいいものを、チェーン系の居酒屋に一人というのは、いささか抵抗がある。これが個人店なら一人でも出かけていたかもしれない。

私は一人でも飲食店に入ることができる人間だが、焼肉とチェーン系居酒屋だけはまだハードルが高い。

諦めきれない私が、あまりに「トリキ トリキ」としつこく言っていたからか、はたまた誰も誘いに乗ってくれない不憫な姿を見かねたのかは分からないが、お弟子が「一緒に行きましょうか?」と声をかけてくれた。

私一人だけが鼻息荒く、お弟子を伴い喜び勇んで繰り出した。しかしこの時節である。食事中にアレコレ喋るわけにもいかない。師匠と弟子が二人、ボソボソと必要最低限の会話しかせず、黙々と焼き鳥を頬張る姿は、傍目には仕事で大失態を犯した直後のようにしか見えなかったであろう。

お弟子にとっては会話もなく、私を目の前にあまりリラックスできる状況でもなく、楽しくもなんともない時間だったに違いない。悪いことをしてしまった。

ただ鳥貴族は相変わらず美味しかった。

いろいろ思うところはあるけれど、早くワイワイしながらアイデアを出しあえる日が帰ってくればいいな、と待ちわびている。

 


以上が2021年半ばに書いたものである。改めて読み返すと、暗く重苦しい日々だった頃の感情が生々しく甦る。
もちろん今だって油断できる状態ではないが、教室内で飲みながら廻り花やら花いけバトル…っぽいやつを開催できるようになってきた。

どうでもいい報告だが、記事中、狂ったように書いていた鳥貴族だが、あれから一度だけ行ったきりである。あれほど書いておいて何なんだ。