いけばなは、本来、床の間に飾って鑑賞するものだったが、今は床の間どころか畳の部屋すらない場合もある。
いける場所
私のお弟子さんに聞いても、床の間があるお家に住まわれている方はひとりだけだ。他のお弟子さんは「玄関の下駄箱の上に飾れるね」と言えば、それすらないと言う。天井まであるシュークローゼットだと。
よく「いけばなを習いたいけれど、飾る場所がない」と言われる。そりゃそうだ。床の間も下駄箱もない。そういえば昔はテレビの上においてあることもあったが、ブラウン管の、しかも相当古い時代のことであり、今なんてテレビは壁に掛かっている。そして何よりでかい。
現代の住環境は、よく言えばムダのない機能的な間取り。ちょっとひねくれた言い方だと、余裕のない間取りである。床の間ひとつとっても、たとえ一畳分でも収納なりワークスペースなりにした方が機能的である。
では稽古した花はどこに飾っているのかと聞くと、部屋のあちこちに飾っている方や、棚の一段を専用スペースにして小さくいけ直している方やら様々だった。
花のある暮らしとは
私の稽古場には床の間があり、時候の軸と花を飾っている。そして私はその準備をしている時間が好きだ。花と花器の軸を取り合わせを考えていると、日常の雑事をちょっとだけ忘れることができる。時にはなぞかけのような取り合わせにすることもあり、誰か気づいてくれるかな?と期待するが、大方スルーされている。
こんな話をすると「丁寧な暮らしをされている」と言われるが、そこまでではない。床を設える時間なんて、15分もあるだろうか?ただ、たとえ15分でもそのことを考える時間は、いい気分転換になる。心の余裕などと言うと、そんなもんあるわけないと反発を食らいそうだが、私だってそこまでの余裕があるわけではない。
話をお弟子さんに戻すと、お稽古から帰り、自宅でいけ直す時間が無心になれてスッキリすると仰った方がいた。これこそいけばなを習う醍醐味ではないか。ほんの少しの時間、生きた花を触り、目に入る場所に飾る。自分なりに上手くいけることができれば、その花が咲いている間、なんとなく嬉しい。これが「花のある暮らし」なのだ。