私の友人も参加している「花いけバトル」
最近はその高校生バージョン「高校生花いけバトル」も盛大に行われている。何年か前、当時高校生だった私の弟子を出そうと画策したが、諸事情あって出場を断念してしまった。今思い返してもつくづく惜しいことをした。
プロの方達が戦う花いけバトルを「大人の修学旅行」と銘打ってお弟子と見に行ったこともある。
「大人の」が付くだけで、そこはかとない淫靡さが漂う気がするが、いかがわしい所には行っていない。
閑話休題。
5分即興で花をいけるスピード感、次々でき上っていくライブ感。
感化されやすい師匠と、面白い事なら何でもやりたいお弟子の当社中。
実は先日書いた「廻り花」が始まる前、せっかく花が大量にあるのだからと、花いけバトル …っぽいやつをやってみた。
本家の花いけバトルは、観客がジャッジする。しかしうちのお弟子同士の対決で誰がジャッジできようか。場合によっては将来遺恨を残す結果となりかねない。そんなリスキーなイベントはまっぴらごめんである。
そんなこんなで、ルールは以下のように定めた。
1.対決は個人戦。中堅戦、ルーキー戦、そして師弟対決
2.花器は先生が2種類指定し、対戦者がジャンケン。勝った方が先にどちらかの花器を選ぶ
3.いける時間は5分。完成時、机の上に切った茎などを残してはいけない
4.勝敗は決しない
中堅戦
まずは花いけバトルを知っているお稽古約10年の中堅対決。
実はこの二人は母娘で、これは肉親同士の対決でもある。
「よーいスタート!」と同時に花を選び始める2人。
…静かだ。やたら静か。なんだこの静寂は。
廻り花の記事でも書いたが、ここの師匠は余計なことしかしない人なので、なんか盛り上げようかね!と運動会の曲を検索し、いきなり流れる「クシコス・ポスト」
一気に高まる緊張感!焦燥感!!
「ぎゃーーー!」「いやぁ!!」
断末魔の叫びをヘラヘラしながら見る師匠。ロクな死に方しないと思う。
「3分経過!!」
タイムキーパー役のお弟子も、心なしか楽しそうに煽っている。師匠に似るって怖い。
焦りに焦らせてタイムアップ。
片やヒメガマを大きくVの字に、下にはアジサイを入れて爽やかに仕上げた。
もう一人はドウダンを伸びやかに、ダリアを印象的に入れた。
ルーキー戦
お稽古半年 vs お稽古1年のルーキー対決。
初戦の様子を見てシミュレーションしていたのだろう。なかなかいい滑り出しだ。
曲は「トリッチ・トラッチ・ポルカ」になっている。そんなに焦る感じでもないのが救いか?
「のこり1分!」
ひたすら花をいける姿は美しい。二人の対決を固唾を飲んで見守るお弟子の顔も真剣だ。
師匠だけがニヤニヤしている。やっぱり性格が悪い人だ。
そんなこんなでタイムアップ。
二人とも投入れの基本型に近く、ブルーベリーをメインにした。
大きな違いは、その量。たっぷりのブルーベリーをしっかりと横に出し、ケイトウとアスター、ユリとレースフラワーの同系色でまとめている。
片やブルーベリーのラインをしっかりと出し、レースフラワーで重心を下げている。
師弟対決
散々煽った師匠と、そんなところが似ちゃった弟子の師弟対決。
実を言うと、これはエキシビジョンマッチみたいなもので、なんとなーくであるが筋書きはできていた。
前夜、準備に来たお弟子は「明日、この枝切っていいですか?」と庭のモミジを眺めていた。
新芽が伸び放題になっていたモミジ。切るならこの部分ねと打合せてあった。
私は私で、流木の使い方を見せてあげたいなと思っていた。
これを「やらせ」だの「八百長」だのと思われたら心外である。あくまでもエキシビジョンマッチだ。
「よーい 始め!」
お弟子は庭木を切りに行き、私は外に並べてある流木を取りに行き……
二人とも稽古場から飛び出して行ったもんだから、対戦者がいない状況になってしまった。なんだこれ。
私は4分使って流木を組み合わせ、残り1分で花を入れた。お弟子はモミジを伸びやかに入れ、ヒメガマを花器にグルグル巻きつけていた。面白い発想だけど、いいのかそれ。本家花いけバトルは、花材は水に浸かっていないとダメだったはず。…ま、いっか。
大きくたっぷりとモミジをいけた作品は、彼の成長をしっかりと感じることができた。
「いや〜、負けました!」
私の第一声である。そして大人気なく「こうした方が良かったかもなー この方が色味がスッキリするし、流木のラインが際立つね」と、自分の作品の手直しをした。
5分で花をいけるなんて、いけばなを何だと思ってるんだとお叱りを受けるかもしれないが、瞬時に造形を思い浮かべ、色彩を調整し、花を留めるテクニックは、通常の花作品を制作する場合において、とても重要なトレーニングとなる。
花も大量に必要だし、準備も後片付けもそれなりに大変なものだから、毎月やれるものではないけれど、廻り花と同じく1年に一度くらいはやれたら面白いなと思う。
翌日、稽古場を片付けに来てくれたお弟子が
「昨日の対決、わざと負けたでしょ」
とニヤニヤしながら訊いてきた。
バレてたか。