千穐楽

花展の場合、あんまり「千穐楽」なんて言葉は使わないが、1週間もやってると「千穐楽おめでとうございます」と言いたくなる。

 

 

今だから言える話

ノリタケの森ギャラリーの基本的な展示期間は、月曜搬入、火曜初日、日曜撤収。本展の初日から3日目までは気分的にも落ち込んでいたが、転機は金曜日に訪れた。

 

隣の展示室の主催者さんも早々に帰られて、残った酒井先生と私に、ギャラリー担当者さんは館内のBGMを自由にしてよいと言ってくださった。

 

館内のBGMシステムは、CS有線放送のsound planetが導入されている。
実は私も同じ有線放送を使っている。400を超えるチャンネルの中には「松任谷由実チャンネル」なるものがあり、24時間エンドレスでユーミンが流れている。
とても素晴らしい。

 

早速チャンネルを合わせると、誰もいないギャラリーにユーミンの歌声が流れ出した。まさかここでユーミンが聴けるとは。
とても素晴らしい。

 

 
どうしてどうして僕たちは 出逢ってしまったのだろう
壊れるほど抱きしめた

 

誰もいない会場で流れる「リフレインが叫んでる」は、結構シュールなもんだと変に感心したりもしたが、この時同時に、私の心が軽くなっていくのも感じていた。

 

翌土曜日。会場へ行くと、なんとBGMはユーミンのままになっているではないか。いいのか?酒井先生は呆れてないか? お隣の展示主催者さんはご立腹ではないのか?などと戦々恐々としていたのだが、誰も何も言わない。むしろその状態が怖い。怖いけどやっちゃえ!もうここまでくれば、やったもん勝ちだ。

 

結局、会場内にユーミンを流したまま、インスタライブも、Facebookライブもやった。ライブでご覧になった方は「あれ?バックにユーミン流れてる?」と気づいた方もいたようだ。

 

ライブ配信も終盤に差し掛かり、今回の展示に関すること、これから文化はどうなっていくのかということなど、ちょっと重い話をした。しかしそのバックには、ユーミンが「Holidayは アカプルコ〜」とご陽気に歌っていた。
ミスマッチ感がすごい。

 

 

アイーン!!

いけばなの世界では、作品の撤収を「撤花(てっか)」と呼ぶ。そろそろその時間も近い。スタッフや弟子が集まってくる。自営業の弟子のご家族はバンタイプの車を出してくれた。本当にありがたい限りだ。

 

酒井先生による締めのご挨拶があり、「白磁 酒井崇全・華道 奥谷一翠×巡る、ながるゝ」は閉幕。波乱に満ちた展示会だった。

 

最後に全員で集合写真を撮った。
志村けんに敬意と哀悼と惜別の想いを込めて、アイーン!

 

ここから1時間で全て撤収しなければならない。ものすごい速さで作品が壊されていく。閉場1時間前までは「これを壊すのは惜しいな」と思っていても、時間がくれば何の躊躇もなく撤花していくのだから、やっぱり華道家というのは業の深い人間だなぁと思う。

 

 

桜の存在感

事前に綿密な片付け手順の打ち合わせ通り、すべての作品が撤収され、資材も撤去された空間に、ポツンと桜の一種いけだけが残った。その姿に思わず息を呑んだ。

何と美しいのだろう。そして何と寂しいのだろう。がらんとした空間にある桜の存在感。
確かにこれは私がいけた桜だ。しかし花を咲かせたのはこの桜。根から切り離され、この枝が花を咲かせるのはこれが最後だ。その最後の力を振り絞って花を咲かせている。こんなに切なく、哀しく、けれどこんなに美しい姿があるだろうか。

 

しかしいつまでも感傷にふけっている時間もない。この作品もまた撤収しなければならない。花に携わっていると、自分の感情を断ち切らなければならない時が来ることを知っている。

 

 

コロナ退散の儀

桜は外的な力が加わることで花びらを散らす。この桜も、ちょっと振動を加えればチラチラと散ってしまうほど満開を過ぎていた。

 

ノリのいい酒井先生と「コロナ退散の儀」なるものをやってみた。酒井先生、どれだけノリがいいのだろう。というか、酒井先生と私は根底に流れる波長が合ってるのかもしれない。横にいたスタッフから「んなことやってないで、さっさと片付けろよ」と声が聞こえた(ような気がした)