巣立ち

春は別れの季節と言われるが、いざその当事者になるとやはり寂しいものがある。

花の現場

私の花教室には、趣味で花を愉しみたい方と、プロを目指したい方がいて、自ずと指導方法も違っている。

 

趣味で花を愉しみたい方には、様々な団体が主催する花展や、教室主催の社中展に出瓶(しゅっぺい・作品を出す意)を主な目的とするが、プロを目指す場合には、これに加えて私自身の仕事現場に同行させ、より実践的な「花の現場」を体験させる。

 

将来、花業界に進みたいと高校2年で入門した方がいる。Hちゃんという。ご実家が生花店というわけではなく、純粋に花が好きで、将来は花に携わる仕事がしたいと、フラワーデザインコースがある農業系の高校に在学していた。

 

約1年半でいけばなの全てを教えられるわけではないが、技術的なことや、花の現場をできるだけ見せるようにしてきたし、本人も様々なコンテストや技能五輪に出場し、実績を重ねてきた。ただし、それだけで上手くなるかといわれれば、答えは否である。

 

 

とにかく知識を貪欲に

そもそも「花が上手い」とは何を指すのだろうか。花束を作るのが上手い?スタンド花やアレンジメントの制作時間が短い?たしかにこれらは「上手い」に入ると思う。けれど、技術的に優れているからだけで「花が上手い」とは言えないと私は考える。

 

確かに技術は大切だ。何度も何度も繰り返して、技術は身につく。そしてそれは基本。プロを目指すならその先の発想力がモノを言う。その発想力を培うためにはとにかく知識が必要で、これは花と関係あるかね?と思われるようなことであっても、どこかで何かしらの役に立つ時がくる…かもしれない。知識と仕事がマッチングするか、これは時の運だが、例えば書籍を購入して本棚に収納していくと最終的には膨大な書庫が必要になる。しかしこれを自らの知識としてストックしていけば、その量は無限だ。

 

技術を備え、知識を蓄えれば、自分の自信へと繋がる。だからフラワーデザイナーを目指すのであれば、何でも貪欲に見聞を広めなければならない。

 

今春、高校を卒業し、縁あって東京の専門学校に進学したHだが、昨今の新型コロナウイルスの影響もあって、盛大に送別会を開くことができなかった。今もって授業開始の目処も立っていないという。

 

実を言うと、これまでつらつらと書き連ねてきたことは、本人にきちんと伝えたかった言葉だ。ちゃんと伝えることができないまま、彼女は私の元から巣立っていった。たった1年半の短い時間だったが私の弟子であることに変わりはない。改めて餞の言葉を贈るとともに、どうか大きく羽ばたいて欲しいと願うばかりである。