音声ガイドの話

今回のいけばな展でいくつか新しい試みをしているのだが、音声ガイドもそのひとつ。

そもそもな話だが、いけばな展で音声ガイドなんて聞いたことがない。博物館や美術館ではよくお目にかかるが。歌舞伎やオペラなど劇場でもイヤホンガイドがある。

地方の小さないけばな教室の展覧会で音声ガイドとは、企画した私ですら「ちょっと大げさじゃないか?」と思っているほどだ。

今回は作者が自ら作品についての話をする。出品者からすれば花をいけるだけでもてんやわんやなのに、マイクに向かって話せと言われてるのだから、私としてもちょっと申し訳ない気がしている。

エンタメ重視

そもそも創作物は一旦作者の手を離れたら、あとは鑑賞者の感性に委ねられる。
解説書や音声ガイドは「この作品をこう見ろ」と言っているに等しい。作者自身が話すとなると、もうエゴだよなとも思う。

それでも今回の展示で音声ガイドの導入を決めたのは、過去に開催した展示で「表現したい意図が難解だった」との感想をいただいたからだった。
個人的には意味が分からない作品であっても、パッと見た瞬間に好きか嫌いかを判断するだけでいいと思っている。色合いが好き、使っている花が珍しい、造形が面白いなど、なんだっていい。
そのうち「これはなんだろうね?」と見ていると、何となく「こういう意味?」と思うことがある。それが作者の意図したところでなくていい。クイズじゃないんだから。正解不正解なんてない。
なので今回の音声ガイドで作者が話していることも、絶対の正解なのではない。
「そういうもんか ふぅーん」程度でいいのだ。

とかく現代は結論や答えを求めがちである。花作品に答えを求められてもなぁと思ってしまうのであるが、求められているのなら応えるのも、楽しんでいただく手段となりえるのではないか。
私もどちらかというとエンタメ重視な部分があるから、せっかくお越しいただいたお客さまには、できるだけ楽しんでいただきたい。

無駄な行動力

ガイドをやるのはいいとして、問題はシステムをどうするかである。
美術館や博物館みたいな専用システムなんて、到底無理な話だ。

何だかんだと理由をつけて「やめちゃおっかなー?」と考えるのは私の悪い癖なのだが、ある展示会で、スマートフォンで二次元バーコードを読み取ると解説が聞ける方式をとっていたのを思い出した。

あ、それならやれるかもしれないと試作してみたところ、わりとすんなりできてしまった。
専門的なスキルがあるわけではない私が、一晩でサイト立ち上げまでやれてしまうのだから、本当に便利な世の中である。

ただしすんなりできたのは大枠だけで、作品ごとのウェブページを作り、音声を収録し、加工したものをページに張り付けて、動作確認をして……などと、とんでもない量の作業が必要になっている。

もちろん今まで通りの作品指導やプロモーションも同時並行なのだから、面白そうだからと、とりあえずやってしまう私の無駄な行動力を、この記事を書いている時点で私自身が恨んでいる。