5年前のご縁から、今回の奈留島に至るまで、何から何までお世話になりっぱなしの葛島さんご一家。
島に到着した日曜早朝から、島を離れる月曜昼過ぎまで、ずっと気にかけてくださった。
はじめましてなのに、はじめまして感はなく、むしろ「ただいま」といった感じだろうか。長男・義信さんと奥様は両親のような温かさで迎えてくださったし、信広さんは兄のように手助けをしてくださった。
つい話が弾んでしまい、日曜の夕食は深夜にまで及んでしまった。さらにはそこから星を見に行こうとお誘いいただいたが、さすがに申し訳なくて遠慮した。が、やっぱり行けばよかったと今さら後悔している。
何より奥様の料理の美味しいことといったらなかった。海が時化て魚がないからと言われたが、ご用意いただいたカンパチは脂がのって最高に美味。
刺身は翌朝にもいただいたが、朝から刺身。なんとも贅沢である。
ほかにもコリッコリの海鼠(しかもワタの美味しいことといったら!)サザエのつぼ焼きなど、食べきれない量で空腹を感じる間がなかった。
空腹を感じないといえば、おやつに五島の郷土食「かんころ餅」もいただいた。これは茹でたさつまいもと餅を合わせたもので、芋と餅のいいとこどりと言えばいいだろうか。
モチモチとホクホクの中間。不思議な食感と自然な甘味でクセになる。あまりに美味しかったので、帰りに立ち寄った福江島でお土産に求めたほどだ。
民宿かどもちさんから歩いてすぐのところに、三兄弟工房さんがある。
ここでは様々な木工作品が作られていて、島の中で見かけたバス停もすべてここで作られているという。ロザリオケースはローマ法王にも献上されたとか。
工房の中には様々な作品が並べられていて、中でも青海波文様が透かし彫りになったコースターはとてもモダンで、帰宅後、早速愛用している。
別れの「瞳を閉じて」
そろそろ島を離れる時間が近づいてきた。
名残惜しいけれどまたいつか必ず来よう。
後ろ髪を引かれる思いとはこのことかと痛感しながら、フェリーターミナルへ向かう。
船を待っていたら、葛島さんがお見送りに来てくださった。
もう泣きそうになる私である。
福江島行きのフェリーに乗り、すぐさまデッキに出ると、すぐ出港となった。
その時、聴き慣れたイントロがターミナルから流れだした。「瞳を閉じて」である。
この歌が奈留高校に贈られてから40年。島の方が就職や進学で旅立つときに流されてきたこの歌を、特別に流してくださったのだ。
もうダメだった。こらえていた涙が一気に噴き出してくる。私はいつまでも手を振った。葛島さんも手を振っていた。
島ではこの曲を一切聴かなかった。それは自分の中の感情を、自分なりにアウトプットするため。このサプライズが、島で聴いた唯一の「瞳を閉じて」になった。
かりそめの家族
私は今回の花をいけるために、島を出て行った人、島に残る人、島を思い出す人のそれぞれの気持ちに、自分の感情を寄せるようにした。特に島を出ていく時はどんな気持ちになるのだろう。そこを意識したつもりだった。しかしそれは想像のものでしかなく、実際にこの曲で送り出された感情は……言葉では紡げなかった。
別れが悲しいわけではない。切ない…とも違う。けれど、とめどなく溢れる涙はなんだろう?自分自身が戸惑うほどだった。
かりそめの、ひとときの家族のような存在でいてくださった葛島さんとの別れに、この曲はまた違った側面を見せてくれた気がする。そしてこの感情と感謝は一生忘れない。
葛島信広さん、義信さん、奥様、本当にお世話になりました。
ありがとうございました。