奈留を旅する

花いけも無事に終わり、私は奈留を歩くことにした。

奈留島は海岸線が複雑に入り組み、それを縁取るように細い道路が通っている。道なりに進むとグネグネと山の中に入り込む。道に迷うようなことはない。走っていればいずれ島のどこかに出るはずだから。

ちなみに島には信号機が1台しかない。これは信号機が何かを教えるためにあるのだとか。しかしその信号機はLEDだった。進んでるぅ!

奈留島

島のメインストリートには交通死亡事故ゼロ記録の看板があり、日付は令和3年10月で止まっていたが、4780日。約13年である。毎年ワーストに近い記録を作ってしまう愛知県民からしたら、とんでもない数字だ。

誤解を恐れずに言えば、島には何もない。有名な観光名所は江上天主堂だが、祈りの場である。奈留高校だって教育機関だ。

何もないけれど、それが本当に心地いい。よくある整備されつくした「ザ・観光地」の様相は全くなく、島で生活している方達の中にお邪魔するといった感じだ。

海岸は砂ではなく石で、独特の波音がする。空にはトンビがゆったりと飛び、野生のキジにも出会った。

江上天主堂

江上天主堂
奈留島

江上天主堂で無事に花いけができたこと、島の方々への感謝を奉告する。遠くに波の音、時折ピーヒョロロとトンビの声が聞こえる以外、本当に静か。

江上天主堂の隣は、旧江上小学校跡地。人口減少により、今では奈留小学校に統合されている。ここに残された木が海風の強さを物語っている。

ノコビ浦の防風堤

葛島さんから「ダムがあって…」と教えられ、この島に貯水ダム?と疑問に思っていたら、遠命寺トンネルの工事の際にで出た土を高く積んだ防風堤だった。

ノコビ浦の防風堤

絶景とはこのこと。写真右が外海、左が湾になっている。外海は白波が立ち、うねりが凄いのだが、方や湾の波は穏やかで、キラキラと輝いていた。海の色も全く違って、こんなに景色の異なる海を一度に見られる場所はあるまい。

それにしても防風堤だけあって、ものすごい風が吹いていた。この強風の中、柵も何もないところに立つのは、ちょっとばかり怖い。

池塚のビーチロック

ビーチロック

小さな石が石灰質で固められて、がっちりとした海岸を形成している。

案内板には、縄文期にはすでにこの状態だったとか。縄文土器も発見されているらしく、およそ2000年以上前、ここに人が住んでいたことに驚かされる。

きっと夏に来ると楽しいだろうな。

奈留千畳敷

奈留千畳敷

噂には聞いていたが、これが本当に圧巻で、写真や映像ではこの迫力は到底伝えられない。私はこの場所にずっといたいとさえ思っていた。

奈留千畳敷

千畳敷には巨岩があり、これだけで充分アート作品のようだ。人間が創り出すアートなんて、自然と比べたら陳腐なものだとすら感じてしまう。

千畳敷の隣が舅ヶ島海水浴場。玉砂利の美しい海岸で、形のいい流木がたくさん流れ着いていた。いけばなの作品に使ったらかっこいいだろうなと、目がキラキラしてしまう。華道家の哀しき性である。島の方にとって流木は厄介物のようだが。

お気づきだろうか。ここにも柵がないのだ。歩くためにほんの少しの階段があるだけ。その分ワイルドさがむき出しで、これが訪れる者を圧倒するのだろう。

どこも心に深く刻まれる場所ばかりだった。