今回は、会場を3つのセクションに分け、早春から晩春までの様々な表情を、白磁と花で表現する試み。
3つのセクションのうち、「ザオーレンポーセクション」「妖の茶会セクション」は、インスタレーション形式で、それぞれの作品の世界観に入り込めるようにした。
ザオーレンポー
酒井先生がお若いころ (今でも充分お若いが) 過ごされた山形。その代表的な景勝地「蔵王連峰」をモチーフにしたレリーフ「ザオーレンポー」
これに合わせるのは、今回の展示会のために作られた、新作大壺花器。手捻りで作られた大壺の肌には美しい波紋が刻まれ、蔵王連峰からの雪解けが清水となって流れていく様を想起させる。
この花器に合わせるのは、脱色シダレグワ・アセビ・スギ(ブルーアイス)・コデマリ・オンシジウム・ギンケイ尾羽・白磁ハト。
後出しジャンケン
「蔵王連峰にかかる雲と木々」と見てもよし、「自然の中に生活する鳥たちの巣」と見てもよし、「吹き抜ける早春の風」と見てもよし、どのような見方をしていただいて構わない。そもそも花とは、芸術とはそういうもの。
私は一度発表した作品の解説をすることが好きではない。後出しジャンケンみたいなもんだと考えている。作品は作者が生み出したものだが、作者の概念のみに作品が嵌め込まれてしまうのは、作品にとっての不幸だ。
しかしこの考え方、鑑賞者にとっては不親切な側面もあることは否めない。「考えないで感じろ」などと作者が言い切ってしまうのも、これまた傲慢である。長いエクスキューズになってしまったが、今回は少しだけ気持ちを入れたお話をしようと思う。
「風」を入れたい
この作品の大壺が完成したと連絡を受けたのは、開催の1週間ほど前。正直ギリギリ間に合ったという感じだが、壺の製作過程は見ていたため、大まかな様子は分かっていた。素焼き前の、まだ粘土で成形してる段階から「このラインに合わせるには」と考えていた。
全体に流麗なラインを纏った白磁壺は、どんな花でもすんなりと合わせることができるだろうが、それはテーマ性を強く打ち出さないと、作品全体がぼやけてしまう危険性もある。
私はこの作品に「風」を入れたかった。壺の波紋は、流れ来る風のようだった。山からの風、春を運ぶ風、鳥たちが感じる風。シダレグワの曲線で、花の部分の風を可視化させた。
白磁のハトがいるのに、敢えてギンケイの尾羽を入れたのは、鑑賞者が移動する時に起こる微かな風に羽根が揺れることを想定しているからだ。
花作品としては、一応の正面を設けてある。タイトル下の画像が正面であるが、どうしても壺が隠れがちになってしまうので、会場では間近にレリーフを見た時に、壺もしっかり見られるようにしていけ上げた。
あのぅ…これ、蔵王なんです
この「ザオーレンポー」の出品が決まったのは、開幕の2ヶ月ほど前。壁掛けのレリーフでとの説明だけを受けていたが、なぜか私はずっと「八ヶ岳」と思い込んでいてた。酒井先生との最終確認で花材一覧を共有した折、「あのぅ…これ、八ヶ岳じゃなくて蔵王なんです」と、申し訳なさそうに、やんわりと訂正いただいたのだが、その後私は会場内でも「八ヶt…蔵王」と繰り返してしまい、酒井先生を大いに呆れかえらせてしまった。
そもそもなんでまた「八ヶ岳」などと思い込んでいたのか、私自身でも見当がつかないのだが、きっとあのあたりの温泉に入ってのんびりしたいという気持ちがそうさせたのだろう。今でも温泉に浸かって、のんびり過ごしたい。というか、そんな日が早く戻って来ることを願っている。