東京だョ おっ母さん(前編)

今回もまた昨年書き溜めた話。季節は昨年秋の話である。

親孝行とは縁のない私であったが、そんな真似事をしたくなったのは、私もそれなりに歳を重ねたからだろうか。

ある日、ふと「11月の歌舞伎座、三谷幸喜の新作歌舞伎を見に行こうかなぁ」と言ったところ、隣にいた母が「あらぁー、いいわねぇ…一人で行くのぉ?あらぁー…ふぅん」と意味深な返事をした。

叔母を見送ってから1年近く、次から次へと「これが厄年か!?」と思うような出来事ばかり起こって、母にとっては、妹に先立たれ、息子は過労で倒れるというこれまた悪夢のような日々だったに違いない。

「チケットが取れたらっていう前提だけど、一緒に行く?」と訊くと、即座に「そりゃもう!」と返事が返ってきた。

散々な日々を断ち切るためにも、ここらで親孝行するか!
ちょうど母の誕生日も近い。誕生日のお祝いも兼ねて、親子旅が決まった。

元気なうちに

母と一緒に歌舞伎座に出掛けるなんて、10数年ぶりである。まさしく島倉千代子の「東京だョ おっ母さん」♪久しぶりに手を引いて…である。

歌舞伎座夜の部を中心にして、母が行きたいところを聞きながらスケジュールを組んだら、なんと分刻みの強行日程となってしまった。あそこも行きたい、あれも食べたいなどと嬉しそうに話す母を見ながら、しっかり歩けて、しっかり食べられるから旅行は楽しいんだ、もっと前から連れてってあげればよかったと、出発前から妙にしんみりしてしまった。

そうは言っても、そもそも私が行きたいと言い出した歌舞伎座の話である。私は歌舞伎座ギャラリーで開催されていた「This is KABUKI 義経千本桜」が見たい。できれば着物で。そんな企みを明かすと「またそんな訳の分からないことを…」と母は呆れていた。さらには「恥ずかしいから一緒に歩きたくないなぁ」とまで言い出した。

パラダイス

いよいよ東京だョ お母さんの日がやってきた。着物姿でチャラチャラ歩く息子の隣には、呆れ顔の母がいた。しかしそんな息子に育ててしまったのは、あなたなのです。母上。

歌舞伎座ギャラリーの展示は、私にとってパラダイスである。

大物浦で血まみれになった知盛の拵えは、太刀の柄も血に染まっていて、居合わせた外国の方と「ほらここにも血がついてる!」「ワォ…」と盛り上がった。

鳥居前での忠信(源九郎)の大小を見た親子は

「これは堆朱?」「どうだろ?それっぽく作ってあるけど、剥げた部分を見ると違うんじゃない?」

などと、親子そろって気持ち悪いヲタクっぷりを発揮していたのである。

極めつけは親子共演の道行である。

母は玉三郎丈と同い年、私は團十郎丈と同い年である。
あのお二人が吉野山をやっても違和感ないのに、どうして私たちがやるとこうなるのか(素人だから)

しかも母が私の信玄袋を持っている。もうばあやの扱いではないか。

島倉千代子は【ここが二重橋 記念の写真をとりましょね】と歌ったが、この親子は木挽町でトンチキ写真を撮っている。いまひとつ感動が薄い。

ギャラリー内にはたっつけ袴のご案内スタッフさんがいて、気軽に「写真撮りますよー」と声をかけてくださる。テンション爆上りの私はいろいろとお願いしてしまったのだが、ふと「とんでもなく気持ち悪い人間になっていないか?」と冷静になって、「気持ち悪い人間でごめんなさいねー」と謝ったら「いや、どっこいどっこいな方たちは多いですよ」とフォローしてくださった。

いやちょっと待て。それってフォローになってない気がするぞ。

トンチキ写真を並べていたら長くなってしまった。ヲタク親子の話、もう少し続けさせて欲しい。