「いっすい花教室では入門前の見学を実施していません」とお伝えすると、え?なんで?と言われる。
雰囲気を知っていただく
言葉足らずなので申し訳ないのだが、私が「基本的に見学は受けておりません」と言うのは、主に稽古時間中の飛び込み見学のことである。
いきなり来るなんてことがあるのかと思われるかもしれないが、年に数度「えっと……どちら様?」となることがある。
好奇心の強さと行動力の高さは本当に素晴らしい。ただ、いきなり見学したいと仰られても、何の用意もない状態では、こちらも為す術がない。そもそもこちらも存じ上げない方を、いきなり稽古場に上げるというのも正直どうかと思う。
教室案内や、ネットをご覧になって入門を希望される場合、いきなり入門・明日から稽古!ということにはならない。
事前にご連絡をいただいた上で、稽古時間外の稽古場でお話をする。現在お稽古されている方からのご紹介の場合は、その方と一緒に稽古場でお話しするようにしている。
稽古場には花器をはじめとした資材も置いてあるし、ある程度は雰囲気がお分かりいただけるかと思う。
どういった花がやりたいのか、稽古日や稽古時間、費用面に無理はないかなどをしっかりとお話しし、ご納得いただいた上で入門となる。場合によっては他の先生を紹介する事すらある。つくづく商売下手だなと思う。
さてこのようなお話をする際、稽古時間中の方が、より雰囲気を感じていただけるであろうことは否定しない。
しかし稽古は(当たり前だが)お弟子さん最優先だから、教室の内容をお話ししている途中でも、お弟子さんの手直しで席を立つことになり、話が途切れ途切れになってしまうし、うちの教室の場合、いけている過程も含めて指導しているから、結局どっちつかずになってしまい、これではお弟子さんにも見学者にも申し訳がない。
入門?師弟? ハードルが高い!
それにしてもこの記事にも書いたが、個人教授者に習う、しかも「入門」だの「師弟」などという言葉まで使われてしまうと、どうしたってハードルは高く感じられる。
しかし私の教室は華道という「道」がつくもので、教える方も教えられる方もお互いが律していなければならない。こればかりは教室の、ひいては私自身の根幹だから譲れない。
ただ、もし私がどこかの稽古場に入門することになったら、やっぱり身構えてしまうだろう。そりゃそうだ。先生はどんな人なのか、どんな稽古をするのかも分からないまま始められる人はそう多くはあるまい。
その辺りを少しでも解消するために、私自身の作品はインスタグラムなりフェイスブックなりに掲載しているし、稽古の様子はこのブログに掲載している。
Twitterは……やれ歌舞伎がどうとか、ユーミンがどうしたこうしたとか、花とはあまり関係のないことまで書いている(このブログもだね)から、あまり参考にならないと思うが、私がどんな人間かくらいはお分かりいただけるかもしれない。
お茶とお菓子と世間話
なぜこのようなまどろっこしいやり方をしているかと言えば、それは私の教室の開講時間とお稽古スタイルに関係している。
私の教室は、一斉に稽古を始める団体稽古ではない。
例えば第二部は午後3時から午後10時までの時間設定で、お弟子さんは都合の良い時間に来て、お稽古をしてすぐ帰る方もいれば、 さすがに昨今の状況下ではできないが、 お茶を飲んでお菓子を食べて、他の方の稽古を見ていたり(これこそ本来の意味での見学なのだが)、世間話をしたり、なんなら「次の飲み会どうするぅ?」なんて計画していたりもする。
60分なり90分なり、時間を区切っているわけではないから、長い人は夕方から夜遅くまでいたりもする。
こんな稽古場では見学者も帰るタイミングが難しいと思われる。タイミングを逃し帰るに帰れない、双方ともに何となく気まずい空気が流れでもしたら最悪である。
見学の方だって「もしかしたら入門申込書を書くまで帰してもらえないんじゃないだろうか」くらいのことまで考えてしまうかもしれない。
私としても「一通り説明しましたし、稽古の途中ですから、どうぞお帰りください」とも言えない。いくらなんでも、これではただの失礼な人だ。
当然だが、入門申込書を書くまで帰れないとか、不動産の権利書を持ってこいとか、持っていると幸せになる壺を買わされるとか、そんなことは絶対にないので、どうかご安心いただきたい。
実は今まで書いたことは、個人教授者の教室に入る場合には、ごく普通のことである。カルチャーセンター主催の講座なら、始まる時間も同じだし、やれ師弟だ兄弟弟子だということもない。
その代わり、指導する内容も画一的になりがちだ。私の教室の場合は、お稽古のキャリアや、どういった花をいけたいのか、その方の得意・不得意を見極めた上で、きめ細かく指導するように心がけている。
また、作品全体の美術的観点、花材を扱うための技術的なこと、花そのものに関する植物学、色彩学、さらには花器に使われる陶芸、花に関する文化的・歴史的な側面などなど、お稽古の合間にお話している。
希望される場合には、私の仕事や花市場での仕入れにも同行し、実際の花の現場も体験できる。
仕上がりの差
私の友人で、花ではないが某教室を開いている方がいる。その方の教室も見学・体験共に行っていない。
曰く「覚悟を決めて入門してこい」だそうだが、さすがに私はそこまで言い切らないが、ニュアンスとしては理解できる。
せっかく何かを習いたいと思われるなら、楽しく、かつ本質が身につく方がオトクだ。
「ちょっといけ方だけが分かればいい」な動機でも、バックに知識があるかないかで、仕上がりは全然違う。これはいけばなに限らず、どの習い事でも同じことが言える。そしてどの習い事でも習得にはそれなりに時間がかかる。
過去に入門前のお話で、頑なに専門知識はいらない、数ヶ月だけ習いたいと仰った方がいたが、こういったタイプの方はお断りしている。
あまりこんな言い方をしてはいやらしいが、私としては、たとえ数ヶ月でもその方からの収入があるわけだから、それなりに教えておけばいいものを、やっぱりそんなことは絶対にしたくない。これは私の矜持であるし、中途半端な知識や技能は、その方にとって毒にしかならない。やっぱり私には商才がないなと思うが。