茶道を習われている方からすれば「廻り花」とは一つの花入れを使い、花をいけて鑑賞し、花すべてを外して…の繰り返しと、ご認識されるだろう。
いっすい花教室では、茶道の廻り花からヒントを得て、ひとつの花器に一人ずつ花を入れ足していくことを「廻り花」と称している。要は一つの作品をリレー形式でいけていく。
だから作品自体は大きくなり、それに伴って時間もそれなりにかかる。
通常、いけばな作品は、大まかなフォルムと色彩を考えて制作スタートとなる。ところがこの廻り花では誰からスタートするのか、どの順番で回ってくるのか、どの花や枝を使うのか、もちろん完成形すら決まっていない。
決まっているのは花器だけ。その横には大量に用意された枝や花、資材。これらを自由に使っていけていく。何をどう使ってもいいが、最終的に作品として成立するように考えなければならない。
ルールは3つ。
1.前の人がいけ終わったら、30秒以内にジャンル(花・枝・流木・資材)を宣言
2.宣言したらスタート。使う花材や資材を選び、枝物・流木は2分以内、花・資材は1分以内にいける
3.直前の人がいけたものを直してはいけないが、最終ラウンドに限り手を入れてもよい
…とまぁ、こう書いてしまうと、とんでもなく難しいことをやっているようであるが、全然そんなことはなく、実は飲みながらやっている。
そもそもの発端は「ただの飲み会じゃつまらん! 何か花教室らしい飲み会はないものか」である。
ベースが飲み会なのだから、不真面目な稽古なのではなく、真面目な飲み会なのだ。…詭弁甚だしい。
各自好きな飲み物やつまみを持ち寄って、まずは乾杯。
飲んだり食べたりしながらなので、花をいけたら手を洗い、アルコール消毒も随時。
飲む方のアルコールが程よく身体に染み渡ったところでスタート。今回は廻り花の前に「花いけバトル(っぽいやつ)」を社中内で開催したが、この話は別記事に。
花材
【枝物】ドウダンツツジ・ブルーベリー・タケ・着色ツゲ
【花】ヒメガマ・ユリ(2種)・アジサイ(2種)・シャクヤク・アスター・ダリア・ピンポンマム・オンシジウム・レースフラワー・デルフィニウム・ウモウケイトウ・グロリオサ・アルストロメリア・タニワタリ・スモークツリー
【資材】流木(10種)・ギンケイ尾・オーストリッチ・ブロンズチェーン・フェイクアイス・貝殻アソート
今回は背の高い花器を使っている。1番手は横に長くドウダンを入れた。この枝で今後の作品の方向が決定したと言える。
当初、私はメンバーに入らず、お弟子だけで進めるはずだった。
が、ほろ酔い師匠が「俺もやる」と言いだし、流木を入れちゃったもんだから、造形としては面白くなるが、いけ口が狭くなるデメリットが出てきた。
「どーすんの…これ…」と困惑するお弟子をニヘラニヘラと見ながら酒を飲む師匠。ロクな人間じゃない事だけは確かだ。
それでも順番は回ってくるし、時間内にいけなければならない。
時間内に花をいけ、手を洗い、そして酒を飲む。
盃が流れてくるまでに歌を詠む「曲水の宴」にも似ている……気がする。
余計なことしかしない師匠
作品がある程度できあがって、何度目かの順番が回ってきた師匠は「花器1個じゃつまんないねー」などと、またまた余計なことを言って、大きな水盤を出してきた。これでゴールが遠くなった。
本当に余計なことしかしない師匠である。
というか、持ち時間が1分とか2分では、ものすごいスピードで花が入るのだ。これではあっという間に終わってしまうし、花が大量に余ってしまう。あまりにももったいない。
なんぼ酔っぱらってるとはいえ、そこらへんをちゃんと考えているのだから、この師匠、そんなにひどい人間ではないのかもしれない。
ただの酔っ払い
何周しただろうか。ぼちぼちゴールが見えてきた。
これを最後の一周にしようかと決め、手直しありの最終ラウンド。
すっかり出来上がってご機嫌さんの師匠は、最初の一手、横に大きく伸びた枝を「これは邪魔だねぇ」とブッツリ切った。
一本目は作品全体の方向が決まる枝。それを切ると作品全体が破綻する可能性が高い。しかし廻り花の場合、初めから完成形が想定されていないし、いけ手がどんどん代るから、前半にいけた枝や花が作品全体の邪魔をしてしまうこともある。
「全体に締まりましたね」「あの枝を切るなんて勇気がありますね」「ただの酔っ払いじゃなかったんですね」
お弟子は口々に感想を言ってくれるが、最後は全く褒められてない気がする。ただの酔っ払いとは師匠に対してずいぶんな物言いである。
完成
完成作品を眺めながら飲む酒は、また格別だ。将棋の感想戦みたいなもんだろうか。
「あそこはこうした方が良かったのではないか」「ここの部分がいい」「先生は余計なことばっかりやってる」(やかましいわ)
こうして夜更けまで花で遊んだ。
どうリカバリするか
廻り花は稽古のようなお遊びのような、不思議な会である。
「いけばなは引き算です」といつも言っているが、廻り花に限って言えば引き算の概念は皆無。
造形と色彩の組み合わせの稽古だと思ってもらえればいい。
また、生の花を扱ういけばなでは、花の水が下がる(元気がなくなる)、折れる、切りすぎたなどのアクシデントに遭遇する。花展の場合では、思っていた花が手に入らないことも少なくない。
思わぬトラブルをどうリカバリするか、この廻り花では稽古として体験できる。だから私が途中で余計なことをやったのも、すべて理由あってのことだ(本当だってば!)
また、比較的大きめの花作品を制作する稽古にも、複数人で一つの作品を制作する稽古にもなる。
廻り花の面白さ、楽しさは、体験しなければ分からない。しかしある程度は花の知識も経験も必要となる。大変に贅沢な稽古(お遊びか?)なのだが、1年に1回くらいはやりたいなと思っている。