どうしてもこのタイミングで出したかった作品。
「Carry on」は、1992年リリース「TEARS AND REASONS」に収録されている楽曲。
特定の競技を歌ったものではないし、スポーツに限られた歌でもない。しかし東京オリンピックが開かれた2021年に、どうしても制作したかった作品である。
この状況下でのオリンピック開催の是非についてではなく、ただ純粋にひたむきに競技に打ち込んできたアスリートたちを想い、讃えたいと思った。
自分が持つ力を最大限に発揮し、そしてさらに上を目指す。分野は違えど、アスリートと表現者はよく似ている。
長い時間
この作品のファーストデザインは2008年。
どんな状況で描いたのかは覚えていない。すぐに発表しなかったのは、当時のデザインでは何かが違うと思ったのだろう。
2013年、東京オリンピックが決定した直後に出会ったのが、今回使用した花器である。一目見て5年前に描いたデザイン画が思い出され、この作品の原型がほぼ固まった。そしてこの作品はオリンピックに合わせ、2020年に発表しようと決めた。熟成というにはあまりに長い時間である。
2020年。オリンピックも終わった10月の個展で発表することを決め、準備を進めていたがオリンピックも個展も延期。
そして2021年、コロナ禍でのオリンピック開催。あの作品を出すべきかどうか、ずっと考える毎日が続く。
日々トレーニングを重ねてきたアスリートは、空席だらけの会場で何を思うのだろう。一年延期したことで出場を断念した人もいる。競技人生から身を引いた人もいる。直前になって感染が判明して出場できなかった人もいる。
一人ひとりに想いを馳せると堪らない気持ちになった。オリンピックを目指し努力してきたすべての人へ、私なりの表現方法で讃えたいと思った時、これはやはり制作すべきだと考えるに至った。
続けること 続くこと
「Carry on」は「続ける」ということ。私はこの作品を発表するまでに13年の時間を使った。もしどこかで花をやめていたら、この作品は永遠に制作されなかった。私もまた花を続けることによって、この作品を生み出すことができた。
しかし続けるということは自分を追い込む孤独な作業だし、絶望的になることもある。
きっとアスリートも同じなのではないか。一緒に走ることはできないけれど、せめて気持ちだけでも寄り添えたら。
そんな想いを込め、競技に打ち込むすべてのアスリートにこの作品を捧げる。