今年もこの季節

雪深い山地に突如として現れる巨大なリゾートホテルに、もう何年通っているだろうか。

そもそも「リゾート」とは、日常を離れゆっくり流れる時間を愉しむものだと解釈しているつもりだが、これがまったく逆の、下手すりゃ日常より分刻みのスケジュールに追われるのは、生来の貧乏性に他ならない。

【SURF&SNOW in Naeba】と銘打たれた公演、今年で45回を数える。

真夏の苗場

実は半年前、昨夏にも苗場プリンスに宿泊した。高崎が本部の「いけばな松風」のお家元、塚越応駿先生にお会いするために高崎を訪れたのだが、だったら近くの苗場にも行ってみようとなった。そもそも苗場から高崎って近くか?

年によっては雪の多い少ないはあるが、雪がまったくない、爽やかな高原の苗場は初めてだ。

BLIZZADRDIUMはキッズのための屋内遊び場となっていた。無理を言って中を見せていただいたが、思っていた以上に狭いなと思った。ここに1500人を入れたライブを毎年開催するってやっぱりすごい。

そして何より外からBLIZZADIUMの内部がみえるなんて初体験。

ま、この程度で感動できるほどトンチキではあることは間違いない。

半年前は愛知から新潟までクルマで移動、ひたすら運転してひどく疲れた。さすがに冬に、しかも今年のこの大雪の中運転する勇気も体力もない。

年々歳々思うのだが、ユーミンファンの年齢層が上がっている。そりゃステージ上のご本人だって古希を越えているのだから、こればかりは致し方ない。んなこと言ってる私だってヘアカラーをしなければ白髪が目立つお年頃である。

毎年越後湯沢駅まで迎えに来てもらう友人も、今年定年を迎えるという。「いつまで運転できるかな」と淋しいことを口にしていたが、苗場まで自分で運転してみて「クルマで来る場所じゃない」の認識を強くしている私としては、雪道に慣れた友人がいなければたちまち困ってしまう。

別れの年

私はライブの内容を事前に知りたくない派である。今回も事前に何も知らないまっさらな状態で観た。テレビの芸能ニュースはもちろん、ユーミンのラジオも、油断するとXでも話題が流れてくるから、ネットすらも見ない日々を送っていた。

さてそんな状態で迎えたライブ本番。

5曲目あたりから「あれ?」となる。どうにも今の自分とリンクするところが多い。9曲目【星のクライマー】で「こりゃ涙腺がやばいな」となり、ついに11曲目【夜空でつながっている】で涙が止まらなくなった。

実は昨夏の、新潟・群馬を巡り帰宅したその日、18年飼った犬が旅立った。そしてその3ヶ月後、今度は叔母が亡くなった。2024年は別れの年でもあった。

そんな別れからまだ日も浅い中で聴く15曲目【離れる日が来るなんて】、続く【Early Springtime】でオイオイ泣いてしまい、正直しんどいと思えるセットリストだった。

それでも本編最後の【14番目の月】でお決まりのジャンプをかまして、アンコール1曲目は【Hello,my friend】

この曲については、私は何年か前のブログで次のように綴っている。

健全と言えば、私が健全な高校生の時、ある地方を一人旅したことがある。その頃ヒットしていた【Hello, my friend】
将来に漠然とした不安を抱えていた自分の、ジリジリとした焦燥感。三十代半ばまではそんな気持ちが蘇る、私の青春ソング(これまた古い言い方)だった。
それが最近は、亡き人や時間を悼むように聴こえる。積み重ねてきた時間がそうさせるのかもしれない。思えば高校生の私は、遥か遠い存在になっている。
付け加えておくが、私は今でも健全だ。

「もう二度と会えなくても」そんなド直球ストレートに歌われたんじゃ、どうしたって泣けてしまう。

くそーまた泣かせやがって…と思った刹那、【BLLIZARD】である。一部界隈からは「振付師ブリザードいっすい」と言われるほど、私がガチンコで踊る曲だ。この曲を本イキで踊らなければ苗場ではない。

「今年も完全燃焼!」と油断していたら、Wコールは【GREY】でまた滂沱。踊って泣いて踊って泣いて。私の情緒はジェットコースターよりも激しく上下する。

終演後、何も考えられないほど抜け殻になりながら、この感覚は叔母の葬儀の後に似ているなと思った。

葬儀でやらなければならないこと、これはお決まりのジャンプや振りに当てはまる。どちらも泣いてる暇なんてない。

気を張っていても、ふとした瞬間に悲しみが襲ってくる。叔母や愛犬と過ごした日々が思い出される。静かに、けれど確実に日々が遠くなっていく。残酷だけど現実。葬送の儀式を全て終えて帰宅した時の寂寥感。

「変な例えだけど、お葬式みたいだったね」と友人に投げかけたら「それは君の感情がまだ悲しみの中にあるからだよ」と返ってきた。

高崎、再び

帰りは高崎駅まで送ってもらった。これまた半年前に訪れた街である。城郭マニアでもある友人の、高崎城址のあれこれに付き合った。

何度か訪れている高崎。何度見ても立派な市役所。公衆電話ボックスがコントラバスになっているほど音楽の街。本当に素敵なところである。

お堀の鯉は人が来ると集まってくるが、エサがもらえないと分かるとさっさと離れていく。まったく愛想のない鯉である。

花をやっていたからこそ、この街にもご縁ができた。苗場に初めて行ったあの時には想像しえなかった未来だ。不思議なもんだなとしみじみ思いながら、帰りの新幹線に乗り込んだ。

ライブを観たから、もうネットも解禁。今年の苗場に関する記事を読み漁って驚いた。

今年の裏テーマは「ロックなお葬式」

やっぱりそうだったか…と同時に、今年の苗場の終わりとともに、別れの続いた2024年がようやく完結した気がした。